三陸新報紙に投稿掲載「市民の森は、私たちの共有財」

三陸新報に当会代表の投稿が掲載されました。

「市民の森は、私たちの共有財産」     

気仙沼の森と海を守る会 代表 松本まり子

東急不動産による市民の森での巨大風力発電事業計画について、環境影響評価準備書の縦覧が始まり、今月16日まで市役所ワン・テン庁舎や唐桑・本吉総合支所、インターネットから縦覧できます。アセス調査の評価としては「実行可能な範囲内で、環境影響を回避又は低減」しており「本事業の計画は適正」としています。再エネの大原則は「地域共生・住民合意」です。近年全国各地の再エネ事業計画地で住民とのトラブルが増加し、国もエネルギー基本計画の中で「再エネについては地域共生が最重要」であるとしています。

この計画の中止を求める9177筆の署名はとても重い民意であり、住民合意がないことの証です。

今回の準備書では、国内の陸上風力発電で前例のない規模の単機6100KW、高さは約180m、回転する羽根の直径は158mの巨大な風車が8基設置計画されています。そのうち8号基は、市民の森駐車場付近に計画され、瘻槻・長柴等の方面により近づきました。さらに、巨大な風車は市民の森の主稜線部、遊歩道に重なります。

巨大風車の下で、山歩きや散策はできるでしょうか。市民の森は自然と人とが交流する場ではなくなりかねます。これは、私たち市民に対して「市民の森を差し出せ」と言うに等しい計画です。

今回やっとフォトモンタージュが出されましたが、市内あらゆる場所から、その異様な姿が見られます。風力発電を観光資産の一つにしようなどと、よもや考える人はいないでしょう。わずか数時間数十分しかとどまらない観光客にとっては物珍しさもあるかもしれませんが、巨大風車を毎日見て暮らすのは私たち市民であり、特に計画地周辺の住民の不快さと苦悩は、大変なものになりかねません。この事業から利益を得る関連事業者もいるでしょうが、その利益は住民の犠牲の上に得るものだという認識を持っているのでしょうか。

何千年という悠久の年月をかけて形成された自然景観と、そこで育まれてきた歴史、文化、風土です。環境や景観は意識しようがしまいが、人間の精神、感性の土壌であると考えます。「気仙沼スピリット」は、海だけでなく、山から海が一体となった自然環境の中で生れてきたものであり、「森は海の恋人」は、山の豊かさが海の豊かさをもたらすという理念です。

今回の巨大風力発電の計画地は、先人たちが市民の憩いの場として整備し作ってきた貴重な自然公園です。そのような大切な山と森林を一企業が脱炭素に貢献すると言いながら、実は利益のために開発することは、市民の大切にしてきた価値と尊厳を踏みにじるものであり、気仙沼市民への敬意のかけらも感じられません。計画地は、市民の自然資産・共有財なのです!!

もし市が市有地・市有林である市民の森を貸し出すなら、事業者は20年間莫大な売電利益を得ることになります。その後更新されて継続利用される可能性もあり、市民の森は半永久的に事業者のための土地となってしまうでしょう。そのころには、今の世代の私たちの中には、いなくなっている人たちも多いです。

将来の気仙沼の子孫にその後始末をさせていいのでしょうか。私たち大人は責任を持って何を受け渡すべきか、選択決断しなければなりません。

事業者が地元への協力金・基金などの経済的な恩恵をチラつかせ、「お金を出せば、それが地域貢献」だと考えているのなら、なんと軽薄なことでしょう。計画地近隣自治会は、事業者からのいかなる金銭的な受け取りも断固拒否するとしています。貴重な自然と暮らしは、金銭で代替できるものではありません。

今回の準備書に対する意見提出が、住民の声を届ける最後の機会です。住民の望んでいない事業に対して中止を要求することは、私たちがどのような地域・環境でありたいかを表明することであり住民自治の基本です。 気仙沼の自然と環境、暮らしと文化を守ることができるのは、私たちの声と力であり、行政は市民の暮らしと安全を守るのが役割です。市当局の良識ある決断を強く望みます。